解説 風と共に去りめ(よくわからなかった人のために)
2024.05.07
四つの話が並行して描かれる複雑な話だったということで、内容がよくわからなかったという声もあったので、解説しておきたい。
簡単に言えば、この舞台は主人公、天野が体験してきたことを、四つの舞台に分けて表現したものである。
非常に狭い空間をさらに四つに分け、登場人物はその中だけで芝居をしなければならない、という制約を課すことで、我々が住むこの世界も同じように狭い、ということを表したかった。
思えば我々はどこへでも自由に行けるような気がしているだけで、毎日、同じ場所に通い、ほとんど同じような日常を送っている。毎日、ほとんど同じ夢を見る今井さんという患者さんと同じ、ではないだろうか。
そんな中、一人だけ、自由に四つの世界を行き来する天野。
天野が辿ってきた時系列は次のとおりである。
会社で濡れ衣を着せられ、女には赤ちゃんを押し付けられそうになり捨てられ、女二人のカッ
プルの三角関係に巻き込まれ、殺人の罪を着せられる。
最後にたどり着いたのが、精神科医夫婦の家。
そこで彼は、妄想に駆られここが宇宙船の内部であり、自分が見ているのは宇宙船を地球だと思わせるための洗脳であったと主張する。
純粋な男が、終末に向かって荒廃していく世の中に裏切られ、妄想を見るに至る、という救いのない話、というのが一つめの解釈である。
しかし、ラストになって、遥は両親が離婚する気などない、と聞く。
これにより違う可能性も浮上する。
実は、天野が言っていることが事実かもしれない、という可能性である。
その場合、この空間は宇宙船であり、乗っている者たちは、自分たちの物語を(脳内で)見ているに過ぎないのかもしれないのだ。
遥も子供であるから、薬を半分しか飲まなかった可能性もある。
隕石が落ちてくる、という噂が散りばめられているが、すべてが天野の幻想であるならそれは単なる噂話に過ぎないのかもしれないし、登場人物たちが宇宙船に乗っているとするなら、それは洗脳前の記憶が残っているからかもしれない。
また、登場人物はすべて天野の物語の中しか存在しないのかもしれないし、その天野自体も存在せず、すべては遥の妄想にすぎないのかもしれない。
このようにさまざまな可能性を残したまま、観客に放り投げたのには理由がある。
実は我々が見ている世界は、すべて妄想、幻想であって、真実ではない、というのが作者の実感だからである。
我々は生まれてすぐに幻想の中に取り込まれてしまうため、何が現実であり、何が真実かわからないまま、一生を終える、ということになる生き物なのである。
それを77分で表現したかったのが「風と共に去りめ」である。